イスラエル・イラン“6日戦争”はなぜ起こったのか? 見過ごされがちな宗教的・歴史的要因と、トランプとイランの最大のディールとは【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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イスラエル・イラン“6日戦争”はなぜ起こったのか? 見過ごされがちな宗教的・歴史的要因と、トランプとイランの最大のディールとは【中田考】

イスラエル・イラン戦争を理解するために。トランプによる「強引な停戦」は今後どうなるか?

 

7. 超正統派ユダヤ人のイラン支持

 

 2023年、総会に出席したイランの故ライスィ大統領は、ユダヤ超正統派「ネトゥレイカルタ」の代表と見しました。彼らは、シオニズムがユダヤに反するとしてイスラエル家の存在に反しており、イランがユダヤ人コミュニティを保護していることに感謝を示しました。これは、宗点からもイランの立場が一定の支持を得ていることを示しています。

 

8. 現代の戦争の意味を読み解くのに歴史の理解が必要な理由

 

 現在のイスラエルイラン戦争は、なる家間の立ではなく、宗・歴史的な背景、ユダヤとイスラムの係、シオニズムとディアスポラの思想的衝突など、複層的な要因が絡んでいます。イランが「イスラエルに死を」と唱えても「ユダヤ教徒に死を」とは言わない理由は、史的にユダヤ人を庇護してきたイランの宗的論理に根ざしています。私たちは、安易なイデオロギやプロパガンダに流されることなく、史と宗の文脈を踏まえて、戦争の意味をみ解いていく必要があります。

 

イスラエルとイランの軍事衝突でイスラエルがイラン首都に攻撃し、多くの死者が出る(2025年6月21日)

 

9.現状:戦争の転換点と参戦国の思惑

  

 2025年6月末現在においては、イスラエルはイランに対して制空権を掌握し、軍事施設や石油施設への空爆を継続していました。イラン側も報復としてイスラエルへのミサイル攻撃を行っていましたが、その効果は限定的であり、軍事的には完全に劣勢となっていました

 状況を大きく変えたのは、6月21日のアメリカの軍事介入でした。これは、もはやイスラエルとイランの戦争というよりも、イスラエルおよびアメリカ対イランの戦争へと転化したことを意味します。ただし、イスラエルとアメリカの目的が一致しているわけではありません。ネタニヤフ政権の目標は、イラン・イスラーム共和国の体制を打倒し、親イスラエル政権を樹立することです。一方、トランプ政権の目標は、イランをアブラハム合意体制に取り込み、中東全体をアメリカ主導で安定させることにあります。イラン体制の崩壊は、トランプにとっては第一の選択肢ではありません。

 こうした背景のもと、両国の思惑が交差する今こそ、事態の根底にある係と略的な交の構み解く必要があります。

次のページイスラエル国とイラン・イスラーム共和国の抱える共通の問題

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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